樫本大進 来日公演に寄せてのインタビュー
2021年1月7日(木)19:00開演 ミューザ川崎シンフォニーホール
樫本大進&キリル・ゲルシュタイン デュオ・リサイタル
ピアニストのキリル・ゲルシュタインと共に、来年1月5日(火)東広島より全国8箇所の日本ツアーをスタートするヴァイオリニスト樫本大進にインタビューを行いました。
2年半ぶりのゲルシュタインとのデュオについて現在の想いを語りました。
●プログラムに込めた思い
プログラムを選定したのは、だいぶ前のことになります。当時は、世の中がコロナウイルスでこんな事になってしまうとは想像もしていませんでしたが、今回の異なる国の作曲家たちの曲を選んだ“ビュッフェ・スタイル”構成は、偶然にもこの苦難な時期にぴったりの内容になったと思っています。来日前にドイツでキリルとリハーサルを行いました。音楽を創り上げている時間はとても充実したものになり、皆さんがこの演奏を聴いて頂いた後に、何かを感じ取って頂ける、特別なものになるだろうと確信しています。
武満徹さんの作品は、このプログラムの核となる曲目です。私もキリルも初めて演奏するのですが、以前からとても美しい曲だと思っていて、実際弾いてみると尚、素晴らしいものだと実感しました。“ビュッフェ・スタイル”にふさわしい、1曲1曲の内容の濃さ、対比や面白さ、味わいがあります。
●キリル・ゲルシュタインについて
学生時代からの知り合いではあるのですが、実は初対面の記憶がうろ覚えなんです。でも、その後音楽祭で一緒に演奏したり、再会することも多く、自然と大切な音楽仲間の一人となりました。ベルリン・フィルで、コンサートマスターとソリストという立場で演奏したこともありましたしね。
彼の作り出す音楽は、とてもピュアな部分もありながら、一方で真の強さとすごく熱いものを持っている、このバランスを使いこなしていると思います。これまで、共演の機会が多くあったわけではないのですが、音楽家としてのキャラクターにおいて共通点が多いと感じています。アンサンブル経験も長けているので、一緒に演奏していてすごく心地よいですし、刺激し合いながら勉強にもなります。リハーサルでは、作品に感じていたテンポ感も、お互いの波長も自然とすごく合っていましたし、曲の解釈も同じ方向性でした。
●コロナ禍であらためて感じたこと
ヨーロッパではほとんどの国が厳しいロックダウンを行って、お店、オフィス、レストラン、全ての劇場、学校などがクローズしました。これは、突然地球の電源が切られて動きがストップしてしまったようで、どうすることもできない無力さ、むなしさを感じることもありましたね。
でも一方で、家族と多くの充実した時間を過ごせました。私にとってとても大切な、子供たちのアイデンティティや人格が成長するのをそばで見ていられましたし、この時間が与えられたことに感謝しました。
文化や音楽はどこまで人間にとって必要なのか、すごく考えさせられました。そして、人々にとって不可欠なものであると、本当に理解させられましたね。幸いにも、ベルリン・フィルでは数年前から「デジタルコンサートホール」が存在していて、ロックダウンの間、オンラインでの演奏(無観客)は許されていたので、すごく自然な流れで演奏の配信が出来たのは有難いことでした。世界中から反響も多く寄せられましたし、この状況下で、仲間たちと再び音楽を一緒に作り、演奏を通してお互いの心を共有できたことは大きな意味を持ちました。
同時に、改めて強く感じたのは、お客さんがいてこその特別さと大切さでした。コンサートは、私たちがどんなに素晴らしい演奏を披露しても、お客さんから頂くパワーと合わさって一つの形になるものなのです。
●ツアーへの想い
私もキリルも来日後の14日間の隔離を行いながらツアーに備えています。これも初めての経験ですね。日本は本当にアートを大切にしてくれている国だと思うので、海外のアーティストにとっても日本で演奏したい、行きたいという気持ちが強いと思います。早く皆さまの前で演奏したいです。
この困難な時期におけるツアーは、私たちにとっても、きっと皆さまにとっても本当に意味のあるものになると思います。
(インタビュー構成:ジャパン・アーツ)